ノア・バームバックの映画は『イカとクジラ』が面白くて、次の『フランシス・ハ』も見て、これもそこそこ面白かった。
で、新作『マリッジ・ストーリー』を見た。いいですよ。面白いですよ。
でもね、離婚に際して裁判所で裁判官が、「事情はわかりましたが、裁判はあなた方より悲惨な状況にある方々がやまほど待っているので。それに比べればあなた方夫婦は恵まれているほうで…」といったようなこと言うのだが、この台詞に共感した。
子供の親権は重大事だが、所詮恵まれた白人のおふたりの話しですよ。
男はマッカッサー天才助成金を貰っているし、女は監督として成功するしで。
あいだに挟まったアホ面の子供のこれからが心配です。
ま、バームバックという人の映画には身近なことしか描けないという決意が感じられるから、これはこれでいいが、スパイク・リーに言わせると、所詮白人至上主義映画ですよ。スパイク・リーは言ってないけど、言いそうなこと、ということで。
ところで、日本語字幕がひどい。舞台を演出することを「監督」と訳しているし、「演出家」をなんと「舞台監督」と訳している。
舞台、演劇に無知な方がやるとこうなる。
ノア・バームバック、ウエス・アンダーソンは仲がいいらしく、ピーター・ボグダノビッチのことが好きなようだ。
ピーター・・ボグダノビッチはサミュエル・フラーと仲がよかったようで、ここいらのアメリカの映画監督は実にいい。
まあ、白人至上主義を免れているのは唯一フラーだと思うが。
そこでボグダノビッチの『ラスト・ショー』を再見したが、実によかった。初見は中学生の時でさっぱり良さがわからなかった。
アメリカの崩壊の過程をテキサスの田舎町を通して実によく描いている。
タンブルウィードが転がる砂嵐の視界不良のせいで、精神薄弱の少年ビリーがトラックに轢かれてしまうシーンにははっとさせられた。
タンブルウィード、砂嵐は西部劇のある種の醍醐味であり、それがもう少年が轢死する原因にしかならないという絶望だ。
このようにしてアメリカは弱者を排除していくことになる、という象徴的なシーンだ。
まあ、若いうちにこれほど感傷を描いてしまったボグダノビッチは、さぞやその後創作に苦労するだろう、現実に映画製作には苦労したようだ。ボグダノビッチは現在80歳だ。