小林秀雄が若いころ武者小路実篤に私淑していた時期があるというので、久しぶりに武者小路実篤を取り出して戯曲『愛欲』を読んで、たいして面白くはないが、けっこうおもしろいと思い、ちょうど仙川に講義に行くので武者小路実篤記念公園に行った。桐朋学園芸術短期大学のすぐ近くなのだ。
公園には私ひとり。日暮れ前の竹林に佇み、『真理先生』は武者小路実篤にとっての福音書なのだと思う。
これがクリスマス前のことである。
今週はじめには、一橋学園の一糸さんのカフェを訪ね、いろいろ喋り(生臭い話ではない)、中野に出て髪を切ってもらい、吉祥寺の花屋に寺山ヘンリクさんを訪ねて、お手製のしめ飾りを購入する。これは暮れの恒例行事である。
次の次の日には小野の芝居を見てナポリタンを食べて『ラストナイト・イン・ソーホー』を見る。
次の日は新宿は雑遊で篤さんと打ち合わせ。来年のことである。
近くのパブでギネスとフィッシュアンドチップスをひっかける。
家のガラス窓ふきも完遂させた。
この二年間、稽古最中、稽古準備で出来なかった掃除である。
くたびれる。
思い通りにいかなかった一年だったが、思い通りに出来たことなど、コロナ禍でなくても滅多にないというものだ。
やたら興奮、熱弁する輩からは極力遠く離れて、粛々と生きたいものだ。
正月は三猫と寝て過ごす。
大して期待せずに観たら、まあ、面白い。掘り出し物。
小粋なホラー。60年代ロンドンの音楽、ファッションと21世紀のフェミニズムの盛りつけがミソ。
あと田舎出の主人公造形が大いに共感力を発動させるに違いない。おっかない都会というクリシェが嫌味なく作動する。
とにかく面白い!
62歳の誕生日。
「おいくつですか」と聞かれ、「2です」と答えた場合、「ああ、72ね」とか言わないように。
小夏、愛、睦からのお誕生日祝い。
今月のはじめには、新宿の飲み屋で、およそ二年ぶりに人と飲んだ。
店先で別れ、帰り道、靖国通りからゴールデン街方面に向かう遊歩道を歩いていると、ここで知り合いとばったり。
知り合いは、「今飲んできたところだからもう飲まないよ」などとぐずぐず言っているので、「いや私は帰り道なのです。西武線で帰ります」と言うと、ついてくる。
歌舞伎町の信濃屋でスコッチのシングルモルトだかシェリー酒だかウンダーベルクを買って帰るのが新宿徘徊の常なので、かまわず立ち寄ると、店の中までついてくる。
アードベッグを買い、西武線に乗って隣同士でわいわいと喋る。コロナ禍における人生の在り方についてであった。
日芸の担当以外の授業にゲストで招かれて『ハムレットクローン』とか『AOI/KOMACHI』についてわいわい喋る。
高円寺のカフェで開催された尾崎さんの公演のアフタートークを頼まれて、観劇後、『オール・アバウト・Z』とロボットについてわいわい喋る。
公開審査で無観客の座・高円寺舞台上で悩む。これほどすっきりしない審査会は初めてだ。
来週はまだ喋る日々が待っている。基本的には情緒が安定しない。
この間、レコードプレイヤーを購入し、押し入れの天袋に入れたままのレコードを取り出すと、もう我ながらレアもの貴重ものばかりで、十代二十代の自分を褒める。
吉田拓郎、三上寛、友川カズキ、森田童子、荒井由実(アルバム「ひこうき雲」ね)、柏原芳恵(笑)から、マイルス・デイビスはもちろんのこと、モンク、エリック・ドルフィー!、ロックはドアーズ、ストーンズ、ボウイあたり、プログレはピンクフロイドあたりはまあ当たり前として、タンジェリンドームそしてテリー・ライリーまで手を伸ばしている。テリー・ライリーは今生きているのだろうかと検索したら86歳で現在新潟の佐渡に移住していると知ってびっくり。
パンクはセックスピストルズ。イギー・ポップもある。マイク・オールドフィールド、ディビット・バーン、ノイバウテン、パティ・スミス!レオン・ラッセル!もいる。
ヴェルベット・アンダーグラウンド、ルー・リード、ニコのソロアルバム。
浅川マキ!サイコー、マリアンヌ・フェイスフル!よく聞きました、マリアンヌ・フェイスフル。
かと思えば武満徹。映画音楽のサントラはやまほどある。
変わり種は、とうじ魔とうじ、陰猟腐厭。知ってる人は知っているだろう。知っている人は本当のプロである。この二枚のアルバムは本人たちからいただいたもので、彼らは八十年代の第三エロチカの観客であった。
ジム・モリソンが死んだ後、残ったドアーズの三人で出したアルバム、クルト・ワイルの曲をスティング、マリアンヌ・フェイスフル、ルー・リード、ヴァン・ダイク・パークスらがアレンジしているアンソロジー「Lost in the Stars」などもあって、何か頗るご機嫌だ。
ぼんやりしていたら、12月になって忙しくなってきた。
ドラマファクトリーの収録。授業。審査会。打ち合わせ。
いよいよ呑み会も解禁になってきて、誘われる。
おとついは、ピンターの短篇をいかに演出するのかという興味の一点で、久しぶりに信濃町のアトリエに出向いた。
今年の年末こそは窓拭きを完遂させたい。
公園でぼんやり。セルフ。
それにしても睦がネズミを追っかけている最中に目覚めなくてよかった。逆に。